出発 ─ 留学という自然な流れ
高校を卒業して、地元から自然な流れで大学へ進学するような感覚で、僕は新宿の語学学校に入った。そこで10か月過ごし、そのままアメリカ留学へ。今振り返れば、もっと不安になったりホームシックになったりしてもおかしくなかったのに、当時の僕にはそんな感情はほとんどなかった。ただ当たり前のように、目の前にある道を歩いていた。
世界の広がり ─ アメリカでの順応と自由
今思えば、僕がアメリカへ行けたのは、かなりラッキーなことだった。父は普通の会社員、母は専業主婦。決して裕福な家庭ではなかったのに、両親は何も言わずに背中を押してくれた。でも当時の僕は、その幸運に気づくこともなく、ただ当然のように飛行機に乗った。アメリカに着いて最初に感じた違和感は、知らない人たちがよく話しかけてくることだった。しかも、みんながちゃんと僕を一人の人間として扱ってくれる。それが新鮮であり、どこか不思議だった。
境界の消失 ─ 大麻、DMT、そして精神の拡張
アメリカでの生活は、最初の5年間は本当に順調だった。日本的な「空気を読む」コミュニケーションの呪縛が少しずつ外れ、知らない人にも笑顔で自然に話しかけられるようになった。世界が広がっていく感覚があった。けれど、その広がりの中で、大麻やDMTに出会い、精神の自由や解放を追い求めるようになった。
アメリカに来てから、僕の中にはふたつの自分が存在していた。日本語を話す「日本の自分」と、英語で感情を伝える「アメリカの自分」。そのふたつを行き来しながら、なんとかバランスを保っていた。しかし、そこにさらに、言語も文化も超えた「本質的な自分」が顔を出し始めた。
覚醒 ─ すべてがつながった瞬間
覚醒の瞬間、僕は心から信じた。
この世界は、本当は誰もが幸せになれる場所なんだと。
すべてはつながっていて、愛はただ存在していて、それを感じられたなら、争いや孤独なんて消えてしまうんだと。
今まで出会ってきた人々、交わした言葉、起こった出来事、そのすべてが偶然ではなく必然だった。まるで、ひとつの巨大な集合意識の中で、生きていたのだと気づいた。
転落 ─ 現実世界への帰還と崩壊
しかし、ちょうどその頃、ビザが切れ、日本に帰国することになった。支えだと思っていた家族も、裏側では崩壊していた。帰国後待っていたのは、壊れた家庭と、精神がずれ始めた自分、そして厳しい日本社会の現実だった。
地獄の3年間 ─ 失われた時間
帰国してからの3年間は、本当に信じられないほどの地獄だった。精神科に3ヶ月入院し、その後逮捕、執行猶予3年。完全に限界だった。
すべてを失ったあと、自分に問いかけた。
「俺には、何ができるんだろう?」
そこから、ほんの小さな一歩ずつ、自分を取り戻していった。
それでも ─ 小さな再起への想い
現実には、酒に逃げてしまう夜もある。体も心も、まだ壊れたままだ。それでも僕は思っている。
たった3ヶ月でいい。
少し厳しい環境に身を置き、無理やりでも自分を整えたい。
縛りのある場所で、日々を積み重ねたい。
何かを治すために。何かを取り戻すために。
再起前夜 ─ 疲れた心で、それでも生きている
もう、何年も思い続けてきた。
再起なんて、本当にあるのだろうか。
宝くじを買いながら、どこかで奇跡を願っている。
けれど、現実は残酷だ。年齢とともに内臓も悲鳴を上げ、老いを感じる。
若い頃のように、「すべては可能だ」とはもう思えない。
信じることにも疲れた。今は、少しどうでもいいや、そんな気持ちの日も多い。
それでも。
確かに、僕はまだここにいる。
疲れた体を引きずりながら、かすかな未来を、どこかで探している。
これが、僕の再起前夜だ。